「すぅ・・・すぅ・・・」



穏やかな風が吹く、その風は、広い平原で、心地よさそうな寝息をたてている少女の髪と服をなびかせている。
明るめの黒髪のショートヘアで、とても大きな青いリボンが頭の後ろについている。
首には青いベルトの首輪、金属部分は金色で染色されている。
靴は足首にひまわりの飾りがついた白いサンダルと、右手首につけられたひまわりの飾りがおしゃれにも気を使っていることが伺える。
何よりも特徴的なのは、ふさふさとした犬耳と長い尻尾、服は、胸に小さな赤いリボンのついた薄いピンクのワンピースを着ている。
その少女は、フリスビーを握りながら眠っていた。すぐ横には小道具の入ったバッグが落ちている。
名前は、ここあと言った。



「ん・・・」



強い風が吹く。
壁や木といったものがほとんどないその場所で吹いた風は、ここあの意識を呼び覚ます。



「ふわあぁ〜〜〜〜・・・」



目を開けて上体を起こし、もう一度目を瞑って大きなあくびをし、目をごしごしと手で洗う。
そして、まだ眠そうなその目であたりを見渡す。その瞳は、とても綺麗な赤い目をしていた。



「ねてしまいました・・・」



ここあは、少し後悔したような様子を見せている。
どうやら、寝るつもりはなかったらしい。



「ふりすびーはひとりでやってもつまんないです・・・」



ここあは、寝てしまった原因を言い訳するようにつぶやいた。
少々不機嫌そうに頬を少し膨らませた顔をしつつ、手にもっているフリスビーを握る。



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せっかくのおやすみなんだからだれかあそんでほしいです・・・
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その様子は、寂しいというよりも、退屈を表しているようなしぐさであった。
口ぶりから察するに、今日は遊び相手といった友達の手が開いてないようだ。
ここあは、ぼーっと青い空を見上げた・・・



「起きたか!獣人の娘!」

「わぅ!?」



ここあの横から突然大きな声が聞こえた、あたりを見回して、誰もいないことを確認したはずなのに・・・。
それにびっくりしたのか、さっきまで眠そうだった目を見開いて声の聞こえた方向を見る。



「あまりに気持ちよさそうに寝ておったから少し待っておったのだ!」

「わっ・・・」



そこには、わずか身長20cmほどと思われるような、羽根の生えた小さな女の子・・・
妖精と言われている種族がここあの前に飛んでいた。青い瞳に、金髪ショートヘアの猫耳で、妖精でありながら獣人でもあるようだ。
そして、その頭にはジャガーの毛皮のかぶりものをしていて、金髪の垂れ耳がぴょこっとでている。
首には、どうみても鉄だけでできている重々しい首輪がつけられている。ここあのつけているものとはまったくの別物だ。
服は、背中と肩を露出したぶかぶかローブで、その露出をカバーするようにケープが肩に被っている。
背中の羽根を出すための構造上、そうなっているようだ。
服の色はオレンジがベースで、裾の部分は赤色で染色されている。まるで太陽をイメージしているようだ。
腰には、黒曜石を加工して作られた短剣のついたベルトがつけられている。
さらに、その妖精の二倍近くはある木製の棍棒が、黒曜石のトゲが無数についたものが後腰につけられていた。
ここあから見ればそれでも小さなものだが、その妖精と見比べると大きいと錯覚してしまうくらいのものである。
靴は、飛んでいて必要がないのか、裸足のようだ。



「ようせいさん!」

「うむ?いかにも妖精だが、何をそんなに驚いているのだ?」

「やっぱりようせいさんはいるんです!」



ここあは、質問に答えるただ感動を表現するように
両手を合わせて、猫耳の妖精を目を輝かせて見つめる。



「ふむ、なんかよくわからんが貴公は我を崇めておるのだな、わかっておるではないか!」

「あがめ・・・?」



そんなつもりは当然ないのだろうが、何やら良からぬ勘違いをしているようだ・・・。
猫耳の妖精は調子に乗るかのように笑っている。
ここあは意味がよくわからないらしく、首をかしげている。



「あっ、えっと・・・ようせいさん、なにかごようですか?」

「貴公は日光浴をしていたのだろう?気が合いそうだから話しかけたのだ!」

「にっこうよく・・・ひなたぼっこ?」

「似たようなものなのだ!」



ここあは、妖精と話している感動のあまりに我を忘れていたことに気づく。
相手に当たり障りの無いような丁寧に話し、話題を変えた。
猫耳の妖精は元気そうにハキハキと喋ってくる。



「獣人の娘!名はなんというのだ?」

「ここあといいます」

「ココア・・・ほう、我がアステカ文明の名産といわれたカカオを使用しているあの飲み物の!」

「それとはまたべつです・・・」

「ますます気が合いそうなのだ!」



ここあの名前の由来はやはり甘くて暖かいあの飲み物のココアからきてるのだろうか。
そこまで詳しいことはわからないが、猫耳の妖精はここあのことを一本的に気に入ったようだ。
なんともマイペースであり、半分会話を聞き流しているような感じである。
最初は自分から首を突っ込んだものの、ここあはその妖精のノリに、少々警戒気味になる。
漫画的な表現をするなら汗のマークが頭についていることだろう。



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げんきなようせいさんです・・・
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そんな妖精を見て、ここあの思うことはただその一言であった。
だが、あったばかりの相手ならそれくらいの印象しか残らないのも不思議ではない。
もう少し対話する必要がありそうだ。



「あなたのおなまえはなんですか?」

「我が名はミュウ=アステカ!アステカ文明の妖精神官なのだ!」

「ようせいしんかん?」

「妖精の神官なのだ!とても偉いのだー!」

「よくわからないけどすごそうです」

「うむ、すごいのだ!」

「みゅう、あすてか・・・みゅうちゃんとよんでいいですか?」

「良いぞ、よろしく頼むぞ!ここあ!」



妖精という種族は、一般的に裸に近い格好、露出が多めというイメージがあるが
ミュウというこの妖精はその概念を見事に破っている。ぶかぶかとしたローブが風でなびいていた。
妖精らしいというよりも、神官らしいというイメージがここあの中で広がっていった。
・・・とはいってもよくわかってなさそうではあるが・・・。



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なぞがおおいのです。さすがようせいさんです。
あすてかぶんめいとかぜんぜんわからないです・・・
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恐らく、昔あった歴史上の文明なのであろう・・・。
しかし、ここあは勉強やそういったものが苦手そうであり
あえてそこには触れないようにしたようだ。
難しい話は嫌いそうだ。



「その首輪、ここあは飼われておるのか?」

「はい、ここあにはごしゅじんさまがいます」

「ほう、やはりか」

「みゅうちゃんにもごしゅじんさまがいるのですか?」

「我が主はとっくの昔にくたばったのだ」

「わぅ・・・ごめんなさい・・・」

「な〜はっは!気にするなー!」



ここあはミュウの首についている鉄の首輪を見て、ミュウもそうではないのかと思い、質問を返した。
どうやらすでに主人はいないようだ・・・失った主人のことを話されても、ミュウはそれを笑って許した。
辛い過去は、時間が立てば笑い話になり、今となっては良い体験になったと感じる者もいる。
ミュウにはもはや、それは笑い話しにできるほどの遠い過去の話なのかもしれない。



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みゅうちゃんは、ごしゅじんさまがいなくなってから
ひとりでいきてきたのかな?かなしくないのかな?
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ここあはそのような考えを抱いているが
それ故にミュウは成長し、このような性格になったとも考えられる。
きっと良い主人を持っていたのだろう。



・・・



ここあが質問をし、ミュウがそれに答える。
ミュウが質問をし、ここあがそれに答える。
相手をよく知らないからこそ、会話がはずんでいく。
最初は少し警戒気味だったここあも、次第にミュウに対する質問が増えていった。
お互いに打ち解けていく様子が目に見えてわかっていった。

どんな暮らしをしている? 好きなものは? 嫌いなものは? 趣味は? 何かおもしろいことは?

ほのぼのとさせる話題が様々と広がっていた。