それは・・・遠い過去の記憶・・・・

 

ダイアロス島ではない、キ・カ大陸の東方の国の物語。

 

ただ、一匹の「きつね」だけが結末を知っている、一つだけの物語・・・。

 

 

・・・

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・

 

 

 

「ぐすっ・・・うっ・・・すんっ・・・すんっ・・・」

 

 

広大な竹林の森の中に、少女がいた。
少女はすすり泣くような声を出して・・・ただただ泣いていた・・・。

 

 

「父上・・・」

 

 

彼女の名はあつやき・・・黒い浴衣を身にまとい、下駄を履いている幼い少女・・・。
ボサっとした長髪、黒髪のエルモニーで、その姿は東洋をイメージさせる。

 

 

あつやきは言った:父上・・・わしには無理じゃ・・・父上がいなければ、わしは・・・

 

 

あつやきの目の前にあるのは・・・父親の墓・・・
そこは、死んだ者たちを供養する墓地であった。
墓には・・・「厚焼嘉元之墓」と書かれていた。

 

 

あつやきは言った:ぐすっ・・・父上ぇ・・・

 

 

・・・いつも、いつも・・・泣いていた・・・。
父が亡くなってから数日が経った。あつやきはそれからというものの、いつまでも悲しんでいた。
父親と死に別れてからまだ日が浅いこともあるが、その悲しみに立ち直れないでいる少女がそこにいた・・・。

 

 

・・・チリンッ・・・

 

 

鈴の音色が聴こえる・・・。

 

 

あつやきは言った:っ・・・、誰・・・じゃ・・・?

 

 

わかりやすい気配と鈴の音、あつやきは泣くのを止め、鈴の聞こえた方向を見る。

 

 

あつやきは言った:・・・きつね・・・?

 

 

そこには、一匹のきつねが座っていた。
金色に近い綺麗な毛並み、とても美しいきつねであった。
きつねの首には鈴がついていた、その鈴は、首輪ではなく、細い糸で首につけられていた。

 

 

あつやきは言った:なんじゃ・・・おぬしは、ご主人様はどうしたのじゃ?

 

 

鈴がついていることを確認したため、どこかに飼い主がいると判断して言葉を出す。
きつねは立ち上がると、ゆっくりと近づいて、あつやきの涙を拭くように顔を舐める。

 

 

あつやきは言った:わわっ・・・なんじゃ、くすぐったいぞい・・・

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
不思議な感覚じゃった・・・。
そのきつねは、どこか暖かい温もりに包まれるような・・・優しさがあった。
今まで悲しんでた自分が嘘のように、涙が消えていった・・・。
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

あつやきは言った:あはは・・・なんじゃおぬし・・・もしかして慰めてくれてるのかえ?

 

 

きつねが顔を舐めるのをやめたかと思うと、微笑むように見つめてしっぽを振ってきた。

 

 

あつやきは言った:めんこいのう・・・ははっ、よしよしっ

 

 

あつやきはきつねの頭をなでる。
きつねは目を瞑ってそれを受け入れた。

 

 

あつやきは言った:・・・いつまでも、落ち込んではいられんのう・・・

 

悲しんでばかりではだめなことは・・・あつやきは幼くともわかりはじめていた。
父を死を理由に前を進み、前を見ることをやめていた少女は、再び歩き出す・・・。

 

あつやきは言った:きつねに慰められるとはのう・・・ふふっ、わしもまだまだじゃな・・・よしっやるぞい!

 


それで決心がついたのか、あつやきは立ち上がり、自分の住む村へ戻ろうとする。

 

あつやきは言った:じゃあの、きつね

 

あつやきはその場から立ち去ろうとする、しかし・・・。

 

チリンッ・・・

 

あつやき言った:ぬっ・・・?

 

鈴の音・・・振り返ると、きつねがついてきていることが確認できた。

 

あつやきは言った:こりゃっ、わしについてきてどうする・・・ご主人様のところへ帰るのじゃ

 

きつねは、あつやきから離れる様子はない。
まっすぐな瞳で、あつやきの瞳を見つめてくる。

 

あつやきは言った:ぬぅ・・・困ったのう

 

―――――――――――――――――――――――――――
動物とはいえ、わしを慰めてくれた相手じゃし、無理に追い払うようなことはしたくない・・・。
鈴がついておるし、飼い主がおる気がするのじゃが・・・はぐれたのかのう?
・・・それとも・・・捨てられたのかのう?
―――――――――――――――――――――――――――

 

あつやきは言った:・・・ふむ、まぁいい、好きにせい
            そもそも言葉が通じぬじゃろ・・・さっきから何を言っておるんじゃわしは・・・

 

 

あつやきはしばらく考えると、考えるだけ無駄なことだと感じた他に、自分のやっていることに思わず呆れてしまう。
きつねの好きにさせてやることにした。

 

 

・・・チリンッ・・・

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
そのきつねは、迷いなくわしについてきた。
動物には好かれやすいほうじゃったが、こんなに懐っこいのははじめてじゃ・・・。
そして、今までにない感覚もする。・・・なんとなくじゃが・・・
きつねの嬉しそうな気持ちが伝わってきたような気がした。
―――――――――――――――――――――――――――

 

 


・・・

 

 

・・・

 

 

・・・

 

 

それから、二年の時が経った。
その時間は、あつやきときつねの絆を深めるには十分すぎる時間だった。
あれからも、何度もくじけそうになっていたあつやきだが、そこにはいつもきつねがいた。
少しずつだけど、あつやきは強くなっていく・・・きつねがいたから、強くなれた。

 

 

・・・

 

 

・・・

 

 

・・・

 

 

あつやきは言った:いらっしゃい、安くしとくよー

 

 

そこは東洋のとある小さな村。山と森林で囲まれた、田舎町といった場所であった。
父の死から数年が経ち、あつやきは若くして父の店を継ぎ、経営をしていた。
店にはたくさんの木彫りの置物が棚に飾ってある。すべてあつやきが作った物だ。

 

 

男が一人来店している。
あつやきは会計をすませる場所とされるL字型の机から客の様子を見ている。
その机は父親が使っていたものなのか、あつやきには少し大きく感じる。
肩のあたりがやっと見えるくらいで、手の指を机の上にのせて客を見つめていた。

 

 

あつやきは言った:ありがとうございました〜

 

 

男の客は何も買わずに、ぺこりと一礼して店を去った。

 

 

あつやきは言った:ふむ、やっぱりなかなか売れんのう、きつねー

 

 

足元にはきつねがいた。丸くなってあつやきに寄り添うように眠っている。
あつやきはしゃがんできつねの頭をなでる。きつねの耳はピクピクと嬉しそうに動いた。

 

 

あつやきは言った:まぁ、気長にやっていくかの、先はまだまだ長いんじゃからのう

 

 

あつやきの店は、動物を象った木彫りの置物を売る置物屋をやっていた。
一通り見回すと、そこには少々雑なものがまざりつつも全体的にデキの良いものがずらりと並んでいる。

 

 

あつやきは言った:思えば・・・父上がやっておったころからこんな感じじゃったな、もともと趣味の店で場所も悪いからのう・・・

 

 

先ほども言ったように、ここは小さな村。貧しくはなくも、裕福な人間は少ない。
置物は家具の一種だが、飾りつけるためだけのものであり、風情を出したり、趣味の合う者だけが買っていく。
興味本位で店に入ってくる者もいるが、大抵は見るだけで満足してしまう。
この村には冒険者や旅人が訪れることは多いが・・・
ただの置物が冒険の何に役立つというのだろうかと考えると購入者は少ないと思える。

 

 

あつやきは言った:父上、これでよかったんじゃよな・・・わしは、父上の置物が大好きじゃ・・・だから、わしも・・・

 

 

眠っていたきつねがあつやきにすりすりと体を寄せてくる。

 

 

あつやきは言った:んっ、大丈夫じゃよ、寂しくない・・・きつねがおるからの

 

 

そうは言いつつも、少し寂しげな顔をしてしまっていた自覚のあるあつやきは我に返って笑顔を戻す。
そして、その場にしゃがんできつねをそっと抱きしめた。きつねは身をまかせるように自分から抱かれにいく。

 

 

あつやきは言った:きつねは優しいのう、それとも嫉妬したかえ?
            「きつねがいるのに!」って…ははっ、相変わらずめんこいのう

 

 

勝手な想像を口にしつつ、にこにこと笑うあつやき。
抱きしめながら頭をなでて存分にきつねのもふもふを堪能する。
動物好きから見れば実にうらやましい光景だ。

 

 

・・・

 

 

あつやきは言った:さてと・・・まぁ、退屈はいつものことじゃな
            今のところ木材をとりにいく必要もないし、今日はずっと店番しておくかの

 

 

きつねとしばらく戯れて満足したあつやきは机の上に両腕と顎をのせ、だらんとしている・・・よほど退屈と見える。
置物を作るにはもちろん、それなりの質の良い木材が必要である。また、副業として余分な木材を売って家計を支えてる。
それらの木材を探しに山に入る日もあるのだが、現状では金銭の問題もなければ木材が不足していることもない。
退屈な休日、それに近い状態であった。

 

 

あつやきは言った:おっ・・・?

 

 

足音が聞こえた、そして、店に人が入ってきたという気配。
あつやきはだらんとしてた姿勢を直して失礼のないように迎える。

 

 

あつやきは言った:いらっしゃい〜

 

 

「・・・わぁ〜・・・」

 

 

店に入るなり、目を輝かせて驚きの一声をあげる客。
そこには・・・袴を着ていて、腰に刀をつけたサラッとした長い黒髪のコグニートの女。
しかし身長は女のニューターより少し低い。まだまだ若々しく子供であるような印象が残る女が立っていた。

 

 


―――――――――――――――――――――――――――
この辺ではなかなか見ない顔つきじゃのう。
外来人・・・冒険者かのう?
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「すごい・・・こんなの見たことないです!」

あつやきは言った:ほう、それは褒め言葉と受け取っていいかえ?

「そのつもりですよ」

 

 

その女はまったく知らない赤の他人であるが、まっすぐとした瞳で言葉を出してくる。
その言葉はとてもお世辞には聞こえない。素直に褒められたことに、
あつやきは照れたように頬を少し赤くして頭をポリポリと掻いた。

 

 

「これ、全部あなたが作ったのですか?」

あつやきは言った:そうじゃよ

「ますますすごいです!こんなの作れるなんて羨ましいです!」

あつやきは言った:ははっ、よしとくれ・・・照れるわい

 

 

もう十分照れているのだが、これ以上褒められてしまう恥ずかしくて仕方がないためかそんな言葉がでてしまう。
あつやきは軽くうつむいてしまう。

 

 

「・・・と、すみません勝手に盛り上がってしまいまして、こういうのに興味あって、それに、珍しいのでつい・・・」

あつやきは言った:気にしとらんよ、それよりもこの趣味をわかってくれる人に会えたことが嬉しいぞい

 

 

うつむくのをやめて今日出会えた喜びを伝えると、少し申し訳なさそうにしていた女は
嬉しそうに両手のひらを合わせて笑顔になり、会話を続けようとする。

 

 

「えっと、こんな時は自己紹介すればいいのでしょうね、私はメリールゥ・・・
 じゃなかった!芥川佳耶(あくたがわ かや)と申します、よろしくお願いします!」

 

 

あつやきは言った:佳耶・・・でいいのじゃな? メリールゥ・・・?

メリールゥは言った:すみません、西洋のほうではそう名乗ってまして、つい癖で・・・

あつやきは言った:癖・・・まぁ、よくわからぬが事情があるのじゃな

メリールゥは言った:そういうことです

 

 

世の中には名前を二つもっている人物はいるものである。
例えばそれが偽名であったり、自分でつけた名前であったり、二つの名前を名づけられてたり・・・
きっとメリールゥにも何かしらの事情があるのだろう。

 

 

あつやきは言った:申し遅れた、わしの名は厚焼玉子じゃ、よろしくの

メリールゥは言った:こちらこそ、よろしくお願いします!

 

 

・・・

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
互いに「よろしく」と言うような相手と出会うのは何年ぶりじゃろうか。
今思えば趣味の合う客がきて、会話することがあっても、こうして名乗り合うことなどほとんどなかったのう。
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

チリンッ・・・

 

 

あつやきは言った:おっ?起きたのかえ

メリールゥは言った:わぁっ!かわいいー!!

 

 

きつねが姿を現して鼻をヒクヒクとさせてメリールゥを見つめてくる。
その姿を見ると思ったことをすぐにでも口にだして目を輝かせる。
メリールゥはきつねに近づき、頭をなでる。

 

 

あつやきは言った:きつねじゃよ、ふふっ、めんこいじゃろ〜

メリールゥは言った:ええ、ほんとに・・・名前はなんていうんですか?

あつやきは言った:きつねじゃよ

メリールゥは言った:あ、いえ・・・きつねなのは知ってます、名前は?

あつやきは言った:じゃから・・・きつねじゃよ?

メリールゥは言った:えっ・・・?

 

 

呆気にとられるメリールゥであるが、数秒経つと我にかえり
あまりに名前がそのまんまなためか、くすっと笑いをこぼしてしまう。

 

 

メリールゥは言った:あはは、もしかして名づけるのとか苦手なんですか?

あつやきは言った:うむ・・・昔から苦手でのう、うさぎにUSAと名づけた時は父上に大笑いされて・・・

メリールゥは言った:ぷふっ・・・!!

 

 

メリールゥはあまりにもひどいそのネーミングセンスに笑わずにいられなかった。
しかし失礼だと思ったのか口を慌てて押さえて笑いをこらえる・・・。

 

 

メリールゥは言った:す、すいませ・・・くふふっ・・・なんでそんな名前を?

あつやきに言った:・・・USAGIを略すとUSAになるからそれでユーエスエーと・・・

メリールゥは言った:あはははははは

あつやきは言った:わ、笑いすぎじゃ・・・

 

 

メリールゥはふっきれたかのように大笑いする。
あつやきは自分のいった言葉を少し後悔したかの恥ずかしそうにしている・・・。
だが、しばらくすると心から笑ってもらえたことに喜びを感じ、あつやき自身も微笑みをかえした。

 

 

・・・

 

 

それがきっかけとなったのか、二人は和気藹々と言った感じで
楽しさがこちらにも伝わってくるような雰囲気が広がるように会話を進めていく。
店の入り口に木製の長椅子をおいてあるのでそこに座り、即席でいれてきた淹れてきたお茶を出して二人で飲む。
あつやきに寄り添ってくるきつねに見て和みながらも色んな話をして答えあう、住む場所が違えど意外と会話が合う。
その理由は、お互いの年齢が15歳と同い年であることであった。
ここにきた理由なども聞いた結果、二人の両親の話もでてきた。

 

 

あつやきは言った:通りで話が合うはずじゃ、まさか同い年とはのう、しかも趣味も似とるとは、偶然じゃなぁ

メリールゥは言った:ええ、こんなの初めてですよ

あつやきは言った:うむ、それで、佳耶殿は父上と共に里帰りの途中であったか

メリールゥは言った:はい、海を渡るどころか、自分の街の外に出るのも初めてでして・・・

 

 

メリールゥの話によると、父親が東洋系、母親が西洋系の生まれであり
父親は武家の生まれで、主君から命を受けて祖国に幾度目かの帰国をしているようだ。
今回、メリールゥは父親に頼みこんで海を渡りここにきた。
少々世間知らずなところは箱入り娘だったということもあるようである。

 

 

あつやきは言った:そうなると、明日にでもここを旅立つのじゃな・・・

 

 

分かり合えそうな人との出会いなため、別れるのは残念に思うのか
あつやきはどこかしら元気をなくすように少し下を向く。

 

 

メリールゥは言った:いえ、それがですね・・・最近、この村の近くに盗賊団が出没するらしくて・・・

あつやきは言った:ほう・・・またでたんじゃな?

メリールゥは言った:また・・・?

あつやきは言った:この辺は冒険者が通ることも多いからそういうやからも多いらしいのじゃが・・・
            不思議なことに被害がほとんどでておらんのじゃ、この村の者から被害を受けたという話は聞かんしの

メリールゥは言った:不思議ですね・・・でもただ運が良いだけかもしれませんし警戒はしとくべきかと。
             それで、父上はその盗賊討伐の依頼を受けたようで、しばらくこの村に留まることになったんです

あつやきは言った:なるほど

 

 

盗賊がでてくることには決して喜んではいけないのだが
そのおかげでメリールゥがここに留まることが知れたことに、あつやきは素直に嬉しいと思ってしまったのか
表情が柔らかくなるのが目に見えてわかった。

 

 

あつやきは言った:ふむ・・・佳耶殿も討伐に参加するのかえ?

メリールゥは言った:そんなまさか、まだまだ未熟ですので・・・それに、父上に猛反対されました

あつやきは言った:じゃよな・・・しかし、討伐に参加しようという動きはしたんじゃな、意外じゃのう

メリールゥは言った:そうですかね、武家の父を持って生まれたのですから、興味があってもおかしくないですよ

あつやきは言った:んっ・・・そうか

 

 

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言われてみればそうじゃな。わしも、父上の趣味に興味を持って
置物作りを始めたんじゃ・・・どこもおかしくはないのう。
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メリールゥは言った:・・・やっぱり、寂しいですか?

あつやきは言った:・・・ん、そんな顔しとったかえ?

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
・・・どうもわしは思ったことが顔にでやすいようじゃ
きつねといい、佳耶殿にもそう思われるとはのう・・・。
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あつやきは言った:寂しくないと言えば・・・嘘になるのう、でも大丈夫じゃよ、きつねもおるし、もう二年前の話じゃ・・・

 

 

寄り添っているきつねの頭をなでながら微笑むあつやきではあるが、その姿にはどこか哀愁が篭っていた。

 

 

メリールゥは言った:・・・・・・よし!

 

 

しばしの沈黙、どことなく重い空気が漂ってしまい、メリールゥは申し訳なく思ったのか
何かを思いついたように大きな声で「よし」と言って立ち上がる。

 

 

メリールゥは言った:せっかくですので何か買っていきますね!

あつやきは言った:ん、承知した、気に入ったものがあればいいのじゃがな・・・

 

 

店に入っていくメリールゥではあるが、どの置物にも興味のあるような視線を送りつつも
数が多すぎるためかすべてに目を通せずなかなか自分のほしいものが見つけられないといった様子であった。
それとも、ここには本当にほしいものはおいてないのであろうか・・・。
せっかく買うのであるから適当には買いたくない、しかしこれはあつやきを落ち込ませないためにでた行動。
それがメリールゥを少しあせらせていた。

 

 

・・・チリンッ・・・

 

 

あつやきは言った:きつね?

 

 

普段、あつやきのそばを離れようとしないきつねが珍しく離れていく。
きつねはしっぽをぱたぱたと振りながらゆっくりと歩いて、メリールゥの足元を通り過ぎる。
通り過ぎる時にしっぽがメリールゥの足にあたり、それによって視線がきつねに向けられる。

 

 

メリールゥは言った:あら・・・きつねさん?ハッ・・・これは!

 

 

きつねが「狼の置物」を見つめている。
きつねの視線の先をメリールゥも見つめ、それを発見するとすぐに手に取る。

 

 

メリールゥは言った:オオカミ・・・!

 

 

そう言って、ぎゅっと狼の置物を優しく抱きしめる。

 

 

あつやきは言った:狼、好きなのかえ?

メリールゥは言った:・・・あっ、はい、狼と梟が大好きなんです、かっこよくて、かわいいし・・・
             なんというか言葉にしなくてもわかる凛々しさっていうのがあって・・・憧れますね。

 

 

何やら恥ずかしそうにしている。さっきからメリールゥの様子や話し方を見る限り
落ち着きがあり上品でしっかり者の大和撫子のようなものを目指しているようだ。
しかし、やはり若さが目立つのか、世間知らずなところもあるのか、なかなかそうするのは難しいようだ。

 

 

メリールゥは言った:これ、買わせてもらいますね

あつやきは言った:まいどありじゃよ

 

 

メリールゥは置物の置かれていた場所についている値札を見て、その代金を机を置いて代金を支払った。
そして再び長椅子に、あつやきの隣に座る。

 

 

メリールゥは言った:えへへ

 

 

狼の置物を抱きしめて満足そうな表情を見せるメリールゥ。
その様子を見つめているとあつやき自身も嬉しい気持ちになってくる。

 

 

あつやきは言った:わしの作ったもので、そんなに喜んでくれる人は始めてじゃよ

メリールゥは言った:そうなんですか?みなさん見る目がないですねー、こんなに出来がいいのに

あつやきは言った:そ、そうかのう・・・?

 

 

またもあつやきを褒めるその言葉、それが照れくさく、下を向いて頬を赤く染める。
これまでに、人に褒められたことなんてほとんどなかった。
あったとしたら・・・それは昔は記憶・・・父上との暮らし・・・。
今なき家族のことを思い出しながらも進むメリールゥとの会話。
様々な思いをこめた対話をしているうちに、いつのまにか日は沈みはじめていた。

 

 

・・・

 

 

メリールゥは言った:さて、そろそろ帰らないとです、

あつやきは言った:承知した、あんまり遅くなっては親御さんも心配するじゃろうからな

 

 

・・・チリンッ・・・

 

 

きつねもメリールゥを見送るつもりなのか、起き上がってあつやきの横に立ってメリールゥを見つめる。

 

 

メリールゥは言った:いい子ですねーほんとに、よしよし

あつやきは言った:躾けた覚えは全然ないんじゃが・・・不思議なもんじゃよ

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
ひょっとしたら、前の飼い主がしっかりしていたのかもしれんのう。
そういえば・・・結局きつねの飼い主は見つからんかったな・・・。
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

きつねがまだここにきて間もないころは飼い主を探してみたりもしたが
村の人々は誰も心当たりはなく結局は見つからなかった。
飼い主が名乗りでてくれば引き渡すつもりであったが、今となってはすっかり情ができてしまったため
引き渡す気にもなれない・・・だが、そのような相手も名乗りでてこないので
今となってはどうでもいいことであった。

 

 

メリールゥは言った:では・・・あっ、えっと・・・

あつやきは言った:んっ?

メリールゥは言った:明日も、来ていいですか・・・?

 

 

メリールゥはどこかしら申し訳なさそうに言う。
その姿は明らかに遠慮をしているように見えるのが伺える。
特に迷惑とも思ってなく、むしろ歓迎であるように、あつやきは表情を明るくする。

 

 

あつやきは言った:もちろんじゃよ、是非来ておくれ

メリールゥは言った:・・・はい!

 

 

メリールゥも心から嬉しそうな表情をして、返事をする。
それを確認して、互いに手を振って別れを告げると、メリールゥはその場をゆっくりと離れていった。

 

 

あつやきは言った:しばらくは退屈しなくてすみそうじゃな、きつね

 

 

きつねと目を合わせながらそんな言葉を言いつつ、店の中へ戻っていく。
あつやきはニコニコとしており、今からもう明日のことが楽しみな様子である。

 

 

あつやきは言った:それにしてもきつね・・・あの時、狼の置き物を見つめて・・・
            まるで佳耶殿の好きな動物を知っていたような仕草じゃったな、もしかして知っていたのかえ?

 

 

きつねはその言葉を無視したかのように目をそらしている。

 

 

あつやきは言った:まぁ偶然なんじゃろうな、さて、晩飯の支度をせんとな

 

 

あつやきがそういうと、きつねはぱたぱたとしっぽを振って店に入っていった。
その姿を見て、やはりただのきつねであるような感じに思ったのか、今日きつねのやった行動も特に気にならなくなっていた。

 

 

・・・

 

 

メリールゥは言った:すっかり遅くなっちゃいました・・・早く帰らないとですね。

 

 

沈む夕日、メリールゥは少し足早にして父の場所へとむかう。

 

 

・・・

 

 

・・や・・・・、・・・・・ね・・・・・・。

 

 

メリールゥ:ん・・・?

 

 

何か声が聞こえたような気がする。
少しだけ足を止めてあたりを見回すが、人影はまったくない。

 

 

メリールゥは言った:気のせいかな・・・?

 

 

幻聴だろうか。確かに聞こえたような感覚はあったが、気にするようなことでもないと思い、再び走り出した。
そんなことより、明日はどんな話をしようかなどを考え、楽しそうな表情を見せていた。

 

 

・・・チリンッ・・・

 

 

・・・

 

 

・・・

 

 

・・・

 

 

・・・チリンッ・・・

 

 

あつやきは言った:ん・・・きつね・・・?くあぁぁ〜〜・・・・よく寝たのう〜・・・

 

 

窓からさしてきた朝の日差しと、きつね鈴の音によって目が覚める。
むしろ、きつねが起きなければもっと寝ていたと思えるほどの熟睡っぷりであった。
あつやきは上体を起こして、大きくあくびをする。

 

 

あつやきは言った:・・・んんっ?・・・きつね〜、きつね〜?

 

 

昨日も一緒の布団で寝ていた。しかしきつねはすでに布団の中から抜け出しており、そこにはいなかった。

 

 

あつやきは言った:・・・ふむ、またいつもの用事かの?

 

 

「いつもの用事」とは言うが、どんな用事であるかはわかっていなかった。
きつねは、こうしてたまにどこかにいくことがある。帰りはそこまで遅くなることはないが
軽い怪我をしてくることがあったので、一体何をしているのか気になり確かめてみようと思ったこともあるが
きつねの足が速くて追いつけない。追求しようにも無駄なことだとわかったため、この件については触れないようにしている。

 

 

あつやきは言った:ん・・・ん〜〜・・・っ!ふぃ〜・・・

 

 

立ち上がって、しっかりと背筋を伸ばすように両手をあげる。
まだ残っている眠気をなくすために身体を少し動かしつつ、きつねのことを考えていた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
時々思う。きつねはなぜわしのところにきたんじゃろうか・・・。
ひょっとしたら、きつねには飼い主はいなかったのかも知れぬ。
そうじゃなければ、あんな唐突な出会いでこんなに懐かれるわけないしのう。
でも・・・そうなるとしたらあの鈴は・・・?うーむ・・・
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

考えれば考えるほど謎は深まる。
あつやきは深く考えることは苦手で、このことを考えるといつも少し混乱していた。
わからないことを考えても仕方ないと思うあつやきは、すぐにそのことを考えるのをやめた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
それにしてもきつねは何をしにいっておるんじゃろ。
森に戻って動物の総大将とかやっとるのかのう?
くすっ・・・なーんて・・・漫画の見すぎじゃの・・・。
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

そんな想像をしながらくすっと笑ったかのように小さな笑顔を見せつつ
準備運動を終え、店の準備を行おうとする。

 

 

あつやきは言った:さて、店の準備の前に・・・いつもの準備、しておくかの!

 

 

きつねのことは今もよくわからない。時々どこにいくのか、時々なにをしているのか。
そして、時々心が通じ合うようにわかるのか・・・わからない、でも・・・
そんな仲でもわかることがある。それでいいと思う。
一つわかっていることは、きつねはいつもお腹をすかせて帰ってくるということ。
そして、もう一つは、きつねはいつも「お土産」を持ってきてくれること。
あつやきは、そのいつものように、きつねがいつでも食事をとれるように準備を進めた。

 

 

・・・

 

 

・・・

 

 

あつやきは言った:さて、とりあえずはこれでいいかのう

 

 

あらかた準備は進めた。
置物を並べ、値札を並べ、店を開けたことをはっきりするように店の外に長椅子を置く。
あとは客がくるのを待つだけである。

 

 

あつやきは言った:さて、今日も退屈な日々になるのかのう?

 

 

自然とそんな独り言を言ってしまうが、メリールゥは明日もくると言っていた。
そのことを思い出したかのように、あつやきは退屈そうな顔から少し嬉しそうな顔に変化していた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
そういえば、佳耶殿がくるんじゃったな。今日は退屈しなくてすみそうじゃ・・・
しかしくるまでは暇じゃのう・・・どうするかの?
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

あつやきはそんなことを考えながら、昨日の出来事を思い出していた。

 

 

・・・

 

 

(狼と梟が大好きなんです、かっこよくて、かわいいし、なんというか言葉にしなくてもわかる凛々しさっていうのがあって憧れますね)

 

 

あつやきは言った:梟、か・・・そういえば、作ったことないのう

 

 

あつやきは昨日言っていたメリールゥの言葉を思い出していた。
自分の店の中を見回す。そこにはたくさんの動物たち。これまで色んな動物を木彫りで象ってきた。
動物の種類だけで見れば30種類以上はこえているが、デキが良く、多く作られている動物はこの辺に生息しているものが大半である。
鳥の置物はいくつか作ったことはあるが、梟はこの辺生息していないためいまだに作った経験はなかった。

 

 

あつやきは言った:ふーむ・・・

 

 

あつやきは机の下をゴソゴソと何かを探しはじめる・・・すると、本がでてきた。
それはあらゆる動物が書き記された動物図鑑で、この辺にもいない動物が詳しく説明されており、絵も描かれている。
パラパラと本をめくり、梟の絵が描かれたページで手をとめる。

 

 

あつやきは言った:・・・難しそうじゃが、やってみるかの

 

 

あつやきは何かを決心したかのように、木材やノコギリが置かれた作業場に入る。
さっそくノコギリを使い、木材を加工しはじめた。置物にするにはちょうどいい角材が仕上がっていった。

 

 

・・・

 

 

・・・

 

 

・・・

 

 

あつやきは言った:ふふふふん〜ふふん〜ふふんふん〜♪ふふふふん〜ふふん〜ふふんふん〜♪

 

 

時刻はお昼を回ろうとしていた。
あつやきは楽しそうに鼻歌を歌いながら、店番をしつつ角材を彫刻刀で彫っていた。
その鼻歌は平和で和みを表すような陽気な鼻歌である。
※ビスク東エリア酒場のBGM

 

 

あつやきは言った:ふ〜〜〜ん♪・・・・っと、そろそろお昼じゃな

 

 

時間を忘れるくらいに彫刻に没頭していたが、そろそろ腹も空く頃合なためか集中力が途切れてくる。
木彫りをしつつも、店番はしていたが客は一人としてこない・・・。

 

 

あつやきは言った:きつねはまだかのう・・・?

 

 

先に食事をすませてもいいのだが、なんとなくきつねの帰りを待ってしまう。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
そろそろ帰ってきてもいい気がするんじゃがのう・・・?
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

あつやきはなぜそう思うかはわからない、ただ、なんとなくそんな気がするのであった。

 

 

あつやきは言った:おっ・・・?

 

 

入り口から軽い物音が聞こえた。
きつねだろうか?そう思いつつそちらに視線にやる。

 

 

あつやきは言った:おかえ・・・なっ

 

 

「じぃ〜〜〜〜〜っ」

 

 

あつやきは思わずビクッとしてしまった。
入り口のドアからこっそりと顔だけを出して・・・熱い視線を送ってくる少女が一人・・・

 

 

あつやきは言った:い、いらっしゃい・・・

 

 

「キョロキョロ・・・」

 

 

鼻をヒクヒクさせながら店の中の様子を見回す少女・・・
警戒心が強いように見えるが、それ以上に好奇心旺盛だと見える。

 

 

「こんにちはー」

あつやきは言った:こんにちは

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
エルモニー・・・?
ではないのかのう・・・あの耳は・・・?
動いとる・・・それにしっぽも?
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

少女はようやく姿を見せ、ぺこりと挨拶をする。
エルモニーに見えるがどこか違う雰囲気がある。髪色は黒髪にほんの少し青をまぜた色で
髪型はポニーテールだが、しっかりとまとめるように縛った髪である。
頭にはうさぎの耳、お尻にはうさぎのしっぽが生えており、それがピクピクと動いている、本物なのだろうか。
服装は、その耳や髪が邪魔にならないように構造された黒く丸いクロースキャップと
肩の肌を露出させているが、それ以外は全体的に暖かそうな黒いシルクローブを着ており
靴は天使をイメージしているような羽根つきの黄色い靴をしている。
挨拶が終わると、くるりと振り返って背後を見せる、すると・・・

 

 

「しろうさちゃん〜!ここすごいよ!動物さんがいっぱいいるのです!」

「えっ!?どこどこ〜!」

 

 

その様子は外にいると思われるしろうさという人物に声をかけていることが伺える。

 

 

「わわっ、なにこれくろうさー」

「ねっ、すごいでしょー」

 

 

しろうさと思われる人物が登場する。
くろうさと同じくウサギの耳のしっぽが生えているがそれは正反対の色で白い。
髪の色は名前の通りに白く、一般的な短いポニーテールの少女。
服装は、都会で今流行りと噂のウサギローブとウサギグローブ。
そのローブは白色をベースされており、どちらかというとコートのような形に近く
胸からお腹のあたりまでしかない黄色く大きいジッパーが特徴的で、赤い短パンをはいていることが確認できる。
靴はダンサーがつけていそうな赤い染色の模様が特徴的なシューズであった。

 

 

そして、見た目通りだが黒い装備の少女はくろうさ、ウサギローブの少女はしろうさというようだ。
お互いに名前を呼びあっているのを聞けたため、知ることができた。

 

 

あつやきは言った:興味があるかえ?是非見ていっておくれ

くろうさは言った:はぁい

しろうさは言った:はーい!

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
姿は違うし、性格も違うようじゃが顔はよく似ておる・・・姉妹なのかのう?
名前も似とるし・・・しかし、くろうさにしろうさ、見たまんまじゃな。
・・・わかったぞい、きっと芸名じゃな!
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

変わっている客、勝手な想像を楽しみながらもあつやきは快く二人を受け入れる。
この世界にはたくさんの種族がいる。不思議とこの店にはあまり聞かない種族が立ち寄ることが多い。
最初はエルモニーかと思ったこの二人もどうやら別の種族のようだ。

 

 

くろうさは言った:すごい〜!どれも生きてるみたい〜!

しろうさは言った:森の香りがする〜!

 

 

褒め言葉であると受け取れるような言葉がはっきりと聞こえてくる。
そんな言葉が嬉しいのか、あつやきは顔を緩めてにこにことしてしまう。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
佳耶殿も言っておったが、わしの作品はそんなに出来が良いのかのう?
・・・いーや、まだまだじゃ・・・もっと精進せんと・・・!
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

一瞬、自分はかなりの実力を持っているのではないかと思ってしまったが
そんなはずはないと思いとどまり、さらに高みを目指そうと考える。

 

 

ぐぅ〜〜・・・

 

 

あつやきは言った:あっ・・・むぅ・・・

 

 

せっかくのやる気が挫かれるように空腹を知らせる音がお腹から聞こえる。
そういえば今日は朝から新しい置物を作るために彫刻に没頭していた。
ロクに朝食もとらずに続けていたせいか目立つくらいの音がでてしまう。
あつやきは少し脱力したかのように下を向いていた。

 

 

くろうさは言った:お腹すいたの?

あつやきは言った:ぬおっ!?

 

 

少し下を向いて、少し目を離したスキに・・・
くろうさはあつやきのいる机に近づき覗き込むように上目遣いであつやきの顔を見ていた。

 

 

あつやきは言った:うむ・・・そろそろ食事にしようとは思っておるがの

くろうさは言った:じゃあ、これあげる!

 

 

そういうとくろうさは腰にあるポシェットを中をごそごそと探し始め
あつやきの前にある物を差し出した。

 

 

あつやきは言った:えっ?

 

 

 

人参。

 

 

 

あつやきは言った:えっ・・・ああっ・・・ありがとう

 

 

あつやきは人参を受け取った。

 

 

くろうさは言った:じぃ〜〜〜〜〜っ

 

 

そしてこの熱視線。これはまさか・・・

 

 

あつやきは言った:・・・食べろというのかえ?

くろうさは言った:うん!

あつやきは言った:・・・生、でか?

くろうさは言った:えっ?

あつやきは言った:えっ?

 

 

あつやきは混乱している。
むしろ、これはあつやきじゃなくても混乱してしまうだろう。
そしてくろうさの反応を見るからに、どうやら人参を生で食べる行為は常識のようだ。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
わ、わしはどうすればいいのじゃ・・・!?
そ、それともこれはネタ振りかえ・・・!?
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

しかしくろうさの真剣な眼差しを見ているとそうも見えなかった・・・。

 

 

・・・チリンッ・・・

 

 

あつやきは言った:ハッ・・・きつね!

くろうさは言った:きつね?

 

 

そろそろ帰ってくる頃合だと思っていたが、その予想は見事に的中した。
きつねは口にウサギを咥えている。それはあつやきに対する土産物。少し豪華になる昼食の材料の一つ。
一仕事終えたような雰囲気をだしながら誇らしげに店の中に入ってきた。

 

 

あつやきは言った:おおっ、ウサギをとってきたんじゃな、腹も減ったしさっそく

 

 

くろうさは言った:うさああああああああああああああッ!!!!?
しろうさは言った:うさああああああああああああああッ!!!!?

 

 

あつやきは言った:ひいぃっ!!?

 

 

突然叫び声をあげる二人。
きつねの姿を見て驚いた・・・ようには見えない。
その叫び声には何かを悲願するような、大きなショックを受けたような叫び声であった・・・。
あつやきはその声にはびっくりせざるを得なかった。きつねもびっくりしたのか毛を逆立たせている。

 

 

くろうさは言った:その子を離しなさい!

しろうさは言った:ゆるさなーい!!

あつやきは言った:ななな・・・なんじゃ!どうしたんじゃ二人とも!

 

 

しろうさは武器を構える。
少しあたふたとしながらも後腰に装備していた銃を手に取り、銃口をきつねに向けた。

 

 

くろうさは言った:ま、まってしろうさ!いきなり銃は・・・

しろうさは言った:でも!でも!!

あつやきは言った:ま、まて!きつねの飼い主はわしじゃ!話を聞いておくれ!

くろうさは言った:飼い主!?

しろうさは言った:敵!?

あつやきは言った:違う!?

 

 

くろうさとしろうさはギラリと目を光らせてあつやきを睨んだ。
その瞳は・・・不思議と威圧感がなければ殺気も感じない。
だが下手をすれば撃たれてしまうことは確実である。

 

 

あつやきは言った:その子を離せ・・・とは、ウサギのことじゃな?

くろうさは言った:そうだよ!

しろうさは言った:仲間なの!!

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
仲間・・・?どういうことじゃ・・・もしかして・・・
あのウサギは二人のペットだったということかえ・・・?
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

はたしてそうなのかはわからないが、これほどに怒りを見せているのであればそうであるとも考えられる。
しろうさのほうは少々攻撃的ですぐに手がでるタイプのようだが、くろうさは焦りを見せつつも
まだ落ち着いているほうである、ここは冷静に話を進めようとあつやきは試みた。

 

 


あつやきは言った:承知した・・・きつね!そのウサギを離すのじゃ!

 

 

きつねはその言葉を理解したかのように、ウサギを咥えるのをやめ、地面に落とす。
「せっかく捕まえたのに・・・」という感じで、少し悲しそうな顔をするきつねの顔が印象的だった。

 

 

ボテッ・・・

 

 

 

 


死〜〜〜〜〜〜ん・・・・・・

 

 

 

 


くろうさは言った:ゆるさなああああああああい!!!!
しろうさは言った:ゆるさなああああああああい!!!!

 

 

あつやきは言った:えええええ!!?

 

 

ウサギはピクリとも動かない・・・首元を噛み付かれた後がしっかりと残っており、とどめを刺されているのは明確であった。
くろうさも武器を構えた。弓を持ち、矢を弦に乗せ、いつでも発射できるようにしてきつねを狙う。
冷静に話し合うという目論見は見事に崩れてしまった。くろうさとしろうさは、まるで姉妹のようだ、そうなのだろうか。
個性はあるが血は争えぬということだろうか・・・。二人は見事に同じ台詞をいいながら、武器を構えた。

 

 

あつやきは言った:待て、待つのじゃ、そんな物騒な物を構えんでおくれ!

くろうさは言った:いやぁっ!絶対許さない!やっつけるー!!

あつやきは言った:っ・・・きつねにウサギをとりいかせたのはわしじゃ!きつねは悪くない!!

しろうさは言った:なんですとー!!?

 

 

・・・!!

 

 

とっさに思いついた嘘だった。きつねを助けるための必死の嘘・・・。
その言葉でターゲットはあつやきに変わる。キラリと光る矢先と銃口はあつやきに向けられた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
逃げるのじゃ、きつね・・・お前だけでも!!
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

死んでしまうかもしれない、例え死ななかったとしても激痛が襲ってくるのは確実。
きつねの無事を祈ると同時に、恐怖で目を瞑った。

 

 

ドォンッ!!

 

 

銃声が響く。

 

 

あつやきは言った:っ・・・!!

 

 

銃声と同時に、強い風がふいたような気がした。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・?

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
痛く・・・ない・・・?
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

銃声は確かになった。しかし、身体には衝撃はなく、痛みもない。
あつやきはゆっくりと、目を開ける。

 

 

あつやきは言った:・・・きつね?

 

 

きつねが机の上に、まるであつやきを庇うかのように立ちふさがっていた。

 

 

くろうさは言った:ううっ・・・さっきの風はなにぃ〜・・・?

しろうさは言った:うわーんっはずれたー!

 

 

銃声と同時に感じた強い風・・・
どうやら気のせいではなく、くろうさとしろうさの二人にも影響していたようだ、一体何だったのであろうか・・・?

 

 

しろうさは言った:はずれたのならもう一度!って・・・あれ?

くろうさは言った:へっ・・・え・・・えええぇっ!!?

 

 

しろうさはもう一度銃に弾をこめ、発射しようとするが・・・引き金が壊れており、発射することができない。
一方、くろうさも矢筒から矢を抜こうとするが上手く抜けず、違和感を感じて確認すると、すべての矢の矢羽がすっぱりと切断されて地面に落ちていた。
これではまともに矢を飛ばすことも、銃を撃つこともできない。

 

 

くろうさは言った:そ、そんな・・・何が起こったの〜?

しろうさは言った:うぁぁん!このままじゃ・・・負けちゃう!!

あつやきは言った:ちょっと待った・・・そもそもわしらは戦う気など微塵もなかったぞい・・・?

 

 

何が起こったかはわからないが今がチャンスである。
あつやきは戦うスベを持っていない、なんとかして説得しようと考える。

 

 

「ここにいたようですね」

あつやきは言った:きゃ、客人かえ?すまぬ・・・今少し取り込んでおって・・・

 

 

長身の男が店に入ってくる。
白髪で、パーマがかかったような長い髪の男、おそらくコグニートの男性かと思われる。
服装はどこかの王族のような服装で、全体的に派手な装飾が目立つ服装となっている。

 

 

「くろうさ、しろうさ、迷惑かけちゃいけませんよ!」

くろうさは言った:ローマイヤ兄さん!?

しろうさは言った:お兄ちゃん!?

 

 

どうやらこの男の名はローマイヤというようだ。
そして二人からの呼び名を察するに兄にあたる人物だと安易に想像がついた。

 

 

ローマイヤは言った:銃声が聞こえたから何事かと思ったよ、きっとしろうさかと思ってきました、探す手間が省けてよかったです。

 

 

しろうさが発砲したことにはツッコミはいれないのだろうか・・・。
何はともあれ、やっと話のわかる相手がきたようだ。
あつやきはほっと息をはいて一安心する。

 

 

あつやきは言った:じ、実は・・・

くろうさは言った:ローマイヤー!うさぎが・・・うさぎがー!

 

 

あつやきが状況を説明しようとするが、くろうさが泣きつくようにローマイヤの足にしがみつく。

 

 

ローマイヤは言った:うさぎ・・・?あの子のことですか?

くろうさは言った:うんう・・・あれっ・・・?

 

 

さっきから、おかしなことが連続している。
首を噛みつかれ、絶命してかと思われたウサギは、何事もなかったように立ち上がっていた。

 

 

しろうさは言った:そんな・・・さっきまでぐったりしてたのに!

ローマイヤは言った:ぴんぴんしてますよ・・・?

 

 

ウサギはしろうさにすり寄ってくる。
しろうさはそのウサギを撫でて、抱き上げるとさっきまでの怒りが何もなかったかのように柔らかな表情を見せた。
なぜウサギは生きているのか・・・そんなことはどうでもよくなり、ただ生きていたことに感動してぎゅうっと抱きしめた。

 

 

くろうさは言った:よかった・・・落ち着いてくれたみたい

あつやきは言った:・・・・・・

 

 

くろうさは自分の行為をなかったことにしていた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
この娘・・・侮れん・・・。
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

ローマイヤは言った:さて、申し遅れました、私はローマイヤと申します。以後お見知り置きを

あつやきは言った:ああ、よろし・・・くっ・・・?

 

 

 

ローマイヤはあつやきの手をとり口づけをした。

 

 

 

あつやきは言った:ひぁっ・・・!?

 

 

まるでどこかの貴族かのような挨拶、あつやきは、手の甲とはいえはじめて男性にキスをされたということに驚きの声をあげる。
顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに手をひき後ろに下がる。

 

 

ローマイヤは言った:お美しいですね・・・っと、失礼、こちらではこの挨拶では一般的ではないようですね

あつやきは言った:え、あ、いやっ、こちらこそっ、すまぬっ!

 

 

あつやきは目を瞑って素早く頭を下げた。

 

 

ローマイヤは言った:顔をあげてください、それで何があったのですか?

 

 

あつやきは言った:えっと、実は・・・

 

 

・・・

 

 

あつやきは覚えていることを一生懸命話す。

 

 

・・・

 

 

・・・

 

 

ローマイヤは言った:今度一緒に食事でもいかがでしょうか

あつやきは言った:なぜそういう話に!?

くろうさは言った:こらローマイヤ!

ローマイヤは言った:冗談ですよ・・・

 

 

くろうさはローマイヤを叱った。
実はくろうさのほうがしっかりもので一番まともなのかもしれない。
怒ると怖いが・・・。

 

 

ローマイヤは言った:なるほど・・・それは申し訳ありませんでした。私たちはうさぎの国出身でして
             そこに住むほとんどの国民はウサギを殺めたり粗末に扱うことは許されないのですよ。

あつやきは言った:うさぎの国とは・・・はじめて聞いたぞい・・・

 

 

世界は広い・・・たくさんの種族がいて、それと同時に種族や国にしきたりのようなものが存在する。

 

 

あつやきは言った:ふむ・・・つまり、おぬしらの国はウサギは神聖な生き物で崇めるもの、食料にすることはありえんし許せないということなんじゃな・・・?

 

 

くろうさはこくりと頷いた。

しろうさはこくりと頷いた。

 

 

ローマイヤは言った:まったく、だめですよくろうさ、しろうさ、文化の違いというものがあるのですから

くろうさは言った:はうっ・・・ごめんなさい

しろうさは言った:うーっ、でも、見過ごせないよ、仲間が食べられるところを見ていろなんて!

 

 

しろうさはウサギを離そうとはしない、もうそのウサギをとって食おうという気は完全にないのだが
すっかりと警戒されてしまっているようだ・・・。

 

 

あつやきは言った:承知した、そのウサギを食べようとはせんから、安心してよいぞ

しろうさは言った:・・・ほんとに?ほんとに?

あつやきは言った:本当じゃよ、嘘は言わん

くろうさはいった:ほんとに、ほんと?

あつやきは言った:うむ

 

 

二人はあつやきをじっと見つめてくる。
目を合わすと、つい視線をそらしがちなあつやきではあるが、二人の眼差しには目をそむけようとはしなかった。

 

 

くろうさは言った:・・・うん、わかった、信じる!

しろうさは言った:信じる〜!

 

 

あつやきはにこっと笑ってほっとする。
肩の荷が降りたようにほっと一息をいれた。

 

 

あつやきは言った:きつねー、もう大丈夫じゃぞ、きつね・・・?

 

 

きつねは机の上で丸くなって眠っていた。

 

 

あつやきは言った:どうしたきつね、・・・さてはせっかくとってきたウサギをとられていじけとるのかえ?
            まぁ・・・今回は諦めるしかないじゃろう、な?

 

 

 

・・・

 

 

 

きつねはうっすらと目をあけてあつやきを見るが・・・
またすぐに眠りはじめてしまう・・・どうやらいじけているとかそういうのではなく、単純に疲れているようだ。

 

 

あつやきは言った:きつね・・・?

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
帰って来た時は元気そうじゃったのに・・・
きっと外で色々あって、帰ってきたらこの騒動で・・・疲れたんじゃろうな。
休ませてやったほうがいいのかのう。
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

きつねは酷く疲労していた。
あつやきは、きつねが疲れていることを察するとそっときつねから離れる。

 

 

くろうさは言った:そうそう、聞いて!

ローマイヤは言った:どうしたんだい?

くろうさは言った:とても不思議なことが起こったの・・・ほら、矢羽が全部・・・

 

 

くろうさの矢筒の中には、矢羽がなくなり使い物にならなくなった矢だけが入っていた・・・。

 

 

しろうさは言った:そういえば、うさのも銃が壊れちゃって・・・

ローマイヤは言った:そういえばしろうさ、さっきうさぎがぐったりしていたと言ってましたね、見たところ元気そうですが・・・

あつやきは言った:その時、すごく強い風がふいたのう・・・目をあけたらきつねが目の前に立っていて・・・

 

 

 

・・・

 

 

 

異質な出来事であった・・・。

 

 

 

結果的に良い形でことは進んだのではあるが、一体あれは・・・。

 

 

 

まるで、あつやきを護るかのようにことが進んだ・・・

 

 

 

その時、目の前にはきつねがいた・・・。

 

 

 

きつねが・・・。

 

 

 


・・・

 

 

 

あつやきは言った:不思議なこともあるのう
くろうさは言った:不思議なこともあるねー
しろうさは言った:不思議なこともあるねー
ローマイヤは言った:不思議なこともありますねー

 

 

 

!?

 

 

 

メリールゥは言った:こんにちはー

 

 

あつやきは言った:あっ・・・佳耶殿!

 

 

ぐぅ〜〜〜・・・

 

 

あつやきは言った:くふっ・・・

メリールゥは言った:ええっ!?た、たまごさん!会って早々どうしました!?

あつやきは言った:ちょっと色々あって食事を食いそびれてのう・・・

メリールゥは言った:あら・・・何かあったんですか?

あつやきは言った:実は・・・

 

 

かくかくしかじか

 

 

あつやきは言った:と、いうわけでのう・・・

メリールゥは言った:・・・・・・なるほど

しろうさは言った:ごめんねぇ、これ、お詫びに・・・

 

 

 

人参。

 

 

 

あつやきは言った:・・・あ、ありがとう・・・

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
くっ・・・しろうさ殿・・・おぬしもか・・・!
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

ローマイヤはメリールゥの手をとり口づけをした。

 

 

メリールゥは言った:あらっ・・・

ローマイヤは言った:なんとお美しい・・・今度一緒に食事でもいかがでしょうか?

あつやきは言った:・・・ひょっとしておぬしのお兄さんは女性にはみんなあんな感じなのかえ・・・?

くろうさは言った:・・・うん

 

 

くろうさは困ったような表情をしながら頷いた。

 

 

・・・

 

 

 

・・・

 

 

 

メリールゥがきたのはいいが、空腹に耐えきれないため先に食事をすますことにする。
メリールゥはすでに食事はすませてあるとのことであったが、家にあがってもらい、少し待ってもらうことにした。

 

 

ローマイヤは言った:あっ、食事にするのであれば、これいかがですか?

 

 

 

人参。

 

 

 

あつやきは言った:もういいっ!

ローマイヤは言った:ビクッ

 

 

 

ローマイヤはとばっちりを受けた。

 

 

 

あつやきは言った:・・・ところで・・・

くろうさは言った:生もいいけど煮込んだのもおいしいのですねぇ〜

しろうさは言った:人参はどんな調理してもおいしいねぇ〜

あつやきは言った:なんでおぬしらまで・・・

ローマイヤは言った:どこで食事をすませるか探していたところなんですよ

 

 

 

あつやき達は食事をするために家の奥に入り、鍋が吊るされ、その下に火を起こす設備がある部屋にきていた。
いかにもという東洋らしさが印象的な和風な部屋であった。
鍋には鶏肉や野菜・・・主に、人参の入った鍋を味付けして調理したものが煮込まれている。

 

 

 

あつやきは言った:いや、まぁ別に良いんじゃがの・・・

 

 

少々図々しすぎないかとも思ったが・・・
知り合いの少ないあつやきにとってはこのように鍋をみんなで囲んで食事するようなことははじめてであった。
そう考えると、こういうのもたまには良いと考えはじめ、くろうさ達を受け入れた。

 

 

メリールゥは言った:へぇ・・・うさぎの国のうさぎ族、という感じですか・・・はじめて聞きます

あつやきは言った:うむ・・・うさぎ耳やしっぽも本物らしいのじゃ・・・

くろうさは言った:そうなのです〜

しろうさは言った:ほらほら〜!

 

 

 

くろうさとうさぎの耳を動かして見せた。

しろうさはしっぽを見せびらかすようにお尻を振った。

 

 

 

ローマイヤは言った:こらっ、レディがはしたないですよ!

しろうさは言った:はぁーい、ごめんなさーい

メリールゥは言った:なるほど・・・すごく動きますね

あつやきは言った:気になったんじゃが、ローマイヤ殿には生えておらんのかえ?

ローマイヤは言った:大人になると、耳もしっぽも隠せるようになるんですよ、くろうさとしろうさは今年でまだ10歳ですからね。

あつやきは言った:ふむふむ

ローマイヤは言った:だそうと思えばだせますよ!

 

 

 

ローマイヤにもしっぽが生えた!

 

 

 

ローマイヤは言った:ハ〜イ

あつやきは言った:うわぁっ・・・
メリールゥは言った:うわぁっ・・・

 

 

 

コグニートの男のうさぎの耳としっぽ・・・
どう反応していいのかわからず二人は微妙な反応をしてしまった・・・。

 

 

 

・・・

 

 

 

途切れぬ会話、しばらく会話を続けていると、驚くべきことが発覚した。
どうやら、ローマイヤはそのうさぎの国の王子であり、くろうさとしろうさは王様と王妃の間に生まれた双子の姉妹だというのだ・・・。
ローマイヤの服装は明らかに王族らしい服装であったが、あつやきとメリールゥには一種のファッションだとしか思えてなかったようである。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
通りで図々しいはずじゃ。
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

貴族の人間が決して全員そうとは限らないのではあるが、一人で妙な納得をしてしまうあつやきであった。

 

 

あつやきは言った:まさか、王族の人・・・うさぎ?だったとは・・・すまぬ、色々と無礼を・・・

ローマイヤは言った:気にしないでいただきたい、友好を築くのに上も下も関係ありませんから

あつやきは言った:寛大なお言葉、かたじけない

メリールゥは言った:それで、王族がなぜこのようなところに・・・観光ですか?

ローマイヤは言った:それもありますが・・・この村で三日後に森の神をまつるお祭りがあるんですよ

あつやきは言った:ぬっ、ローマイヤ殿もそれが目的であったか

メリールゥは言った:お祭りですか!!

 

 

 

大きな声を出して「お祭り」という言葉に反応するメリールゥ。
意外にそういうものが好きなのだろうかと伺えるような様子であった。

 

 

 

あつやきは言った:う、うむ・・・この村は人口は少ないが、その日だけは結構たくさんの人がくるのじゃ

メリールゥは言った:・・・そ、そうですか・・・確かにここにくる途中、少し人が多い気がしました。
             気になるので行ってみたいと思います

 

 

落ち着きを取り戻すメリールゥ。
どことなく恥ずかしそうな表情できっちりと正座をする。

 

 

メリールゥは言った:森の神、ですか・・・ミトヤですか?

あつやきは言った:それとはまた少し違うらしいのじゃが・・・まぁ、似たようなものかのう?

メリールゥは言った:そうなんですか

あつやきは言った:噂ではそうして奉っておるからこの村は護られて、安全じゃとか・・・

メリールゥは言った:なるほど・・・盗賊の話を聞いてこの村にきましたけど、この村自体には盗賊がこないっていうのも変な話ですし
             ひょっとしたらその噂、本当に・・・

あつやきは言った:そんなわけないじゃろ

メリールゥは言った:あはは、ですよねっ

 

 

 

・・・チリンッ・・・

 

 

 

あつやきは言った:おっ、きつね!起きたんじゃな、食事の準備はできておるぞ

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
お疲れ様、きつね。
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

心の中でそう思いながらあつやきは、きつねが部屋に入ってきたこと確認して、明るい笑顔を振舞った。

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・

 

 

 

外にでるとあたりは暗くなってきており、明るい夕日が眩しいほどに光っていた。

 

 

くろうさは言った:すっかりごちそうになっちゃった、おいしい食事、ありがとうね

あつやきは言った:口に合ったのならよかったわい

 

 

あつやきときつねとメリールゥが並び、くろうさ達の帰りを見送る。
きつねはすっかり疲れたようで、いつもの調子を取り戻していた。

 

 

あつやきは言った:そうじゃ、くろうさ殿・・・これを差し上げよう。

くろうさは言った:わっ、なになに?

 

 

くろうさはわくわくとした表情であつやきを見つめる。

 

 

あつやきは着物の袖から「ウサギの置物」を取り出す。
それをくろうさの手のひらの上に置いた。

 

 

くろうさは言った:わぁ〜〜〜〜!!

あつやきは言った:よっぽどうさぎが好きのようじゃからのう、それはサービスじゃ持ってゆくと良いぞ

くろうさは言った:ありがとう〜〜〜〜!!

 

 

くろうさはあつやきにメロメロだ!

 

 

ちょうどあったものだから渡したのようだが、これほどまで大げさに喜ぶのは少し予想外であった。

 

 

くろうさは言った:しろうさー!ローマイヤー!見て見て〜!!

しろうさは言った:わー!

ローマイヤは言った:おおっ!

メリールゥは言った:すごい喜び方ですね〜

あつやきは言った:作ったかいがあったというものじゃ

 

 

―――――――――――――――――――――――――――
こうして喜んでくれて、感動してくれる人を見ると
自分がなぜ置物作りをしているのかがよくわかる・・・。
これじゃから、わしは置物を作るのをやめられない。
―――――――――――――――――――――――――――

 

 

くろうさは言った:ありがとう!大切に!大切にするからね〜!

あつやきは言った:そうしてくれるとありがたい

 

 

あまりの喜び具合につい嬉しくなってしまい、目をそらして頬を染めてしまう。
そして、目をそらしてるうちにくろうさとローマイヤの位置が入れ替わり、ローマイヤは挨拶しようとする。

 

 

 

ローマイヤはあつやきの手をとり口づけをした。

 

 

 

あつやきは言った:ひぅっ・・・!?

ローマイヤは言った:今日はありがとうございました、妹たちも喜んでますし、良い一日でした。

あつやきは言った:う、うむ・・・

 

 

すでに顔が赤いのに、さらに顔を赤らめ、すっかり硬くなっている。
あつやきにとってはこの行為だけでも刺激が強すぎるのが、どうも慣れないようだ。

 

 

ローマイヤは言った:ははっ、本当にかわいい反応をしますね〜

あつやきは言った:か、かわいい・・・わしがかえ・・・?

ローマイヤは言った:ええっ、よければ今度二人でデートにでも

くろうさは言った:こらローマイヤ!

ローマイヤは言った:すんません

 

 

しょんぼりとするローマイヤ
くろうさに怒られて突然おとなしくなってしまうその姿は不覚にも笑いを誘われそうになってしまう。
一体くろうさとローマイヤの間にどういう関係があるのだろうか・・・。

 

 

しろうさは言った:どーん!!

あつやきは言った:ぬおっ!?

 

 

突然、しろうさが抱きついてくる。
喜んだり、恥ずかしくなったり、驚かされたり、気持ちの切り替えが大変である。

 

 

あつやきは言った:な、なんじゃ、しろうさ殿・・・?

しろうさは言った:友達の証!ぎゅう〜!

あつやきは言った:ちょ、ちょっと、苦しい・・・

 

 


しかし、「友達の証」言われながらしっかりと抱きついてくるしろうさに、あつやきは抵抗できなかった。
そのまま身をまかせて、しろうさが離すまで待つことにした。

 

 

きつねはしろうさをじろっと見つめた。

 

 

しろうさは言った:そ、そんな目で見ないでよきつねちゃん・・・

あつやきは言った:ははっ・・・きつねはヤキモチ焼きじゃからのう

 

 

きつねの視線が効いたのか、しろうさは力を緩める。
抱きつきから解放され、あつやきはほっと一息はく。

 

 

しろうさは言った:えへへっ

あつやきは言った:ふう・・・そなたらは本当に前衛的じゃのう、特に挨拶が・・・

しろうさは言った:そうかな?でも悪くはないでしょ?

あつやきは言った:う、うむ・・・まぁ、いいんじゃないかのう?

しろうさは言った:なにさー!

 

 

特にしろうさの豹変ぶりは印象的であった。
最初はあれだけ警戒していたというのにいざ仲良くなるとこれほど積極的になるとは想像にもつかなかった。

 

 

ローマイヤは言った:それでは、私たちはこれで、また祭りの夜にでも

くろうさは言った:またね〜!

しろうさは言った:まったね〜!

 

 

手を振って別れを告げる。

 

 

メリールゥは言った:騒がしい人たちでしたねぇ〜

あつやきは言った:ほんとに、そうじゃのう〜

 

 

メリールゥは笑いながらそんな言葉を言った。
あつやきもその言葉に賛同し、メリールゥと一緒に笑う。

 

 

あつやきは言った:兄妹、か・・・いいものじゃな

メリールゥは言った:そうですねー、あんな妹がほしいです

あつやきは言った:そうじゃなぁ・・・

 

 

くろうさ達の姿が見えなくなる。
あつやきは少し寂しそうな顔をしてそれを見送っていた。

 

 

メリールゥは言った:たまごさん・・・

あつやきは言った:あ、いや、なんでもない・・・

 

 

あつやきのその目は、まるで子どものようであった。
それはどこか甘えたそうで、切なそうで・・・なんだか放っておけないような気持ちにさせるような姿であった。
その様子を見たメリールゥは、あつやきの頭に手をあてて優しくなで始める。

 

 

あつやきは言った:ん・・・か、佳耶殿、何を・・・?

メリールゥは言った:あっ、すみません・・・なんとなく・・・変ですよね、同い年なのに

 

 

そうはいっても、エルモニーとコグニートでは大きく身長が違う。
他人の目から見ればあつやきのほうが幼く見え、メリールゥから見てもそのあつやきのしぐさにはどことなく
母性みたいなものが働くのだろう。

 

 

あつやきは言った:・・・いや、すまぬ・・・不思議と落ち着くわい

メリールゥは言った:それなら、もう少しこのままでも?

あつやきは言った:・・・うむ

 

 

・・・

 

 

夕日が沈みはじめていく。
それからメリールゥとしばらく対話しているうちにすぐにメリールゥも帰る時間となった。

 

 

あつやきは言った:今日は、あんまり佳耶殿とは話せんかったのう・・・

メリールゥは言った:そうですね・・・でも、また明日がありますよ

あつやきは言った:・・・そうじゃな!

メリールゥは言った:それでは、また明日!

あつやきは言った:またの〜

 

 

メリールゥは手を振った。
あつやきは手を振った。

 

 

・・・

 

 

・・・その夜・・・

 

 

あつやきは言った:ふふ〜、きつね〜♪

 

 

上機嫌そうな声をあげて、きつねに抱きつくあつやき。
人前での硬さとは大違いの行動と言動である。

 

 

あつやきは言った:きつねー、佳耶殿とは良き友達になれそうじゃ、もちろんくろうさ達ともじゃ

 

 

祭りの日がこんなに楽しみなのは、父が亡くなってからは一度もなかった。
あつやきはすでに祭りのことで頭がいっぱいで、わくわくしたような顔をしている。

 

 

あつやきは言った:それまでに・・・「あれ」も完成させんとな!がんばるぞいっ!

 

 

・・・

 

 

晩御飯をすませ、蝋燭の火を消す。
いつものように、きつねと一緒に布団に入る。
今日も、一日が終わる。

 

 

あつやきは、幸せそうな顔をして眠りについた。